省エネ設計
気密・調湿
まずは気密ありき。気密性能の指標としてC値があります。私たちはC値の目標値を0.1(cm2/m2)としています。必達値としては0.3(cm2/m2)を設定しています。やるべき事を慎重に行っていけばどの施工店さんでも達成可能だと考えています。
気密の取り方としては、室内側の調湿気密層、外壁側のパネル層の2層で気密を取ることをお薦めしてます。この手法なら、ちょっとディテールに注意を払うだけで0.3(cm2/m2)を達成できるはずです。
調湿性能の指標としてSd値があります。空気層1mを基準として空気層2m相当ならSd値=2と要った具合に表現します。日本の場合、何でもかんでも気密シートと呼ばれるSd値の異常に高いシートだけを使ってきました。最近やっと湿気のマネージメントというものが考慮されるようになってきました。私たちは湿度に応じてSd値の変化する、可変タイプの調湿気密シートをお薦めしています。
断熱
室内から室外へ熱が逃げていかないようにするのが断熱です(夏は逆)。
断熱性能を示す値としてU値(熱貫流率)があります。U値はその値が小さいほど高性能になります。屋根、壁、窓などそれぞれ部位毎にU値が求められます。それぞれのU値を面積割合に応じて平均化した値がUa値です。
一般にはこのUa値で建物全体の断熱性能を評価します。2020年基準ではUa値の基準が0.87(6地域)とされていますが、これは最低基準です。せっかく新築で住宅を建てるのであればその半分の0.43以下にはしておきたいですね。PassiveHouseレベルを目指すのであれば0.15を目標にしなくてはなりません。
どうやって基準をクリアさせるかは設計者によって個性が出るところですが、0.43程度であればこれまでの充填断熱の延長上でクリアさせることは十分可能です。
日射取得と日射遮蔽
太陽熱を取り入れる為、日光を取り入れる事が日射取得で、夏季はなるべく日射を取り入れたくなく、冬は日射を取り入れたいため夏季だけ日射を防ぐことを日射遮蔽と言います。
自然の力を使って、冷暖房をまかなうことををパッシブ手法と言います。
どのような建築物でも夏季に少なく、冬季に多く日射を取り入れる調整を望まれます。これらのことを可能にする為に、庇や軒、落葉樹、ブラインドや簾を利用する事で日射遮蔽を行うことが出来ます。
南側の窓等の開口部では、主に庇や軒を利用します。南側は夏季と冬季で日射取得の差や日射角度の差の影響が大きい為、庇や軒で日射角度を利用し日射取得を防ぐことが出来ます。また、落葉樹を利用する事で夏季は葉で直接日射を遮り、冬季は葉が落ち日射を直接取り入れる事が出来ます。
東側や西側の開口部では、主にブラインドや簾を利用します。東西は年を通しても日射取得の変化が小さいのでブラインドや簾で日射取得を防ぐ事が可能です。
蓄熱
蓄熱の目的は、室内と室外の温度のピークの時間をずらすこと。また室内の温度の変化を緩やかにすることです。
蓄熱を旨く利用することで、室内の温度変化を1/5に下げ、ピーク温度の時間を12時間ずらすことが可能です。
蓄熱を考慮する場合、断熱材に木質断熱材を使うことをお薦めしております。 木質断熱材は、断熱性能そのものは特別優れたものではありませんが、蓄熱性能は飛び抜けています。
換気
換気については、 長く明確なことが言えない時期が続きましたが、そろそろ、明言しても良いように思います。
現在は、第一種換気が推奨されています。特に超高性能住宅では、換気による熱損失が全体の熱損失においてかなりの割合を占めるようになっています。しかし、換気によって気温の変化が起こるだけでなく、夏期においては湿気の流入が快適性にとって重要であることも明らかになってきました。
ヨーロッパでは、顕熱交換と呼ばれる温度によるエネルギーの交換に重点を置いた換気システムが一般的です。しかし、日本では湿度がもたらす問題が大きいため、温度と湿度の両方のエネルギーを交換できる全熱交換器を推奨しています。これにより、外気と室内の熱と湿度を効率的に交換し、快適な環境を維持することができます。
また、一部では、熱交換された外気を直接エアコンに接続することで、除湿効果をさらに高める試みも行われています。
冷暖房&調湿設備
エアコンや除湿機のことです。これらは暖房能力、冷房能力といった指標で評価されます。具体的な数字を出すなら、ヘアドライヤーが1000W程度の暖房能力があります。これに対して家庭用エアコンの6畳用と呼ばれる物は2200Wの暖房能力があります。
最近ではヘアドライヤー1本で家全体を暖房可能な家も設計できます。一方で日本の夏は除湿がマストなのでやはりエアコンに頼らざるをえません。
創エネ・蓄電
太陽光発電、太陽熱温水機、蓄電池等があげられます。高価な設備が多いので、なるべくこれらに依存しない設計を心がけています。
徒然なるままに・・・
○気密性能 18.4.10
PassiveHouseネタばかりになりますが、PassiveHouseでは気密性能がC値換算で0.3以下が求められています。意識の低い工務店さんだと逆立ちしても不可能な性能です。ですが、高気密高断熱住宅のまず重要なポイントは気密なのです。気密があって次に断熱なのです。どんなに暖かいジャケットを着ていても、お腹が出ていたら寒いのと同じ理屈です。工務店さんには必ず気密測定をしてもらいましょう。高くても5万円くらいでテストできます。
○暖房器具は必要なくなる? 18.4.10
床下エアコンや暖炉は必要ですか?断熱の性能を上げていくと、室内発熱が熱損失を上回るポイントがあります。このポイントを目指したのがPassiveHouse。PassiveHouseレベルの住宅では、床下エアコンは冬場でもオーバーヒートや過乾燥の原因になります。暖炉なんてPassiveHouseに置いては単なるインテリアに成り下がるでしょう。むしろ煙突の孔が気密性を下げるのでマイナス要因かもしれません。ちなみに室内発熱とは人体からの発熱、家電等からの発熱を意図しています。
○冬布団が要らなくなります 18.4.9
PassiveHouseレベルまで断熱性能を上げると、真冬でも夏布団や毛布だけで寝られるようになります。断熱性能を上げると収納スペース削減に繋がることがあるのです。
○ATMMという概念 18.4.9
エアータイトネス&モイスチャー・マネジメントを略してATMMです。これまでは室内側にPEシートを張って壁体内に湿気が入らないようにするだけでしたが、これでは夏場の壁体内結露が防げませんでした(壁体内結露を容認)。ヨーロッパでは透湿抵抗値を段階的に変えた調湿気密シートがあり、これをATMMの考えにもと付いて使い分けているのです。
日本でもほんの一部の住宅でインテロやザバーンという可変式の調湿気密シートが使われてきました。ここに来て新製品がいくつか発表されています。
また、湿気の影響をアメダスのデータを用いて3年間にわたりシミュレーションするソフト(WUFI)も存在します。まだこういったシミュレーション手法が日本で十分に評価されているとは言えません。一部の断熱マニア向けです。
この概念が普及していくにはまだまだ時間が掛かりそうです。